その2 現代に生きるトラジャの貴重な伝統文化
今回の旅のいちばんの目的は、トラジャのユニークな伝統文化に触れること。
そこには目を見張るような埋葬文化、人々のルーツを想像させる建築様式がありました。
●トラジャのハイライト、その1は断崖埋葬
まず訪ねたのはレモ。ここにはトラジャを代表する、断崖をくり抜いて作ったお墓があります。
棚田の奥の崖を見渡すと、テラスのような窪みにたくさんの人形(ひとがた)が並んで立っています。
そのそばには幾つもの四角い穴が開けられているのがわかります。
人形はタウタウ(タウとは人のこと)と言って、ナンカ(ジャックフルーツ)の木で作られており、
それぞれ顔形が異なりますが、皆白い衣をまとって祈るように両手を前に差し出しています。
埋葬された人々をかたどっていて、等身大とまではいかないものの大きな人形です。
アンティークの価値があるらしく、不遜にも盗む人がいて、作り直したとのこと。

レモの断崖、墓穴のそばでタウタウが両手を広げて
四角い穴がお墓の入口で、60cm×60cmほどの人ひとりがやっと通れるほどの大きさですが、
内部は2m×3mもあり立って歩けるといいます。ドリルなどのない昔はひとつの穴を4〜5人で
6カ月もかけて掘ったそうです。
穴ひとつが一家族用で、高い場所にあるのが身分の高い人用。岩壁の横にあるタウタウの
ない横穴が庶民用とのことでした。
岩の高見から農作業をしている人々を祖先が見守っているようです。
タウタウを製作しておみやげに売っているお店がそばに何軒かあり、製作風景を見ることができます。
つづいての見学場所はロンダ。このエリアでよくある鍾乳洞を利用した、こちらもお墓です。
入口にランプをもった案内人たちがいて、足元や内部を照らしてくれます。
明かりに照らし出されるのは棺桶、それにおびただしい人骨。はじめは躊躇したものの、
だんだん怖さを通りこしてこれほどたくさんの人骨が集められているのに感心し……
なんとも不思議な体験でした。
●もうひとつのハイライト、伝統家屋のトンコナン
トラジャの祖先は海から来た、といわれています。それを証明するひとつが、伝統家屋のトンコナン。
今もよくトンコナンを残している集落、ケテ・ケスを訪ねました。

ケテ・ケスの集落遠望
集落のいちばん奥には集会所があり、真ん中の通りを挟んで左右に秩序正しく
同型の木造建物が並びます。正面向かって左が大きめで住居棟、右が米倉。
左右一対が一軒用となります。
トンコナンがずらりと並ぶ村の通りを歩くと、その重厚さに圧倒されます。
トンコナンはいずれも高床式。屋根がまるで船をかぶせたような形をしていることから、
祖先は海洋民族だといわれているのです。最近トタンをかぶせている建物が多くなっていますが、
ここケテ・ケスではほとんどが竹で葺いてあります。建物の外壁は彩色画で覆われ、
水牛の頭のオブジェが飾られ、そのモチーフから生活の一端を垣間見ることができます。
 船を思わせる屋根をもつトンコナン |  外壁にニワトリと太陽が描かれている |
ところで、装飾のなかでひときわ目立つのがニワトリのモチーフ、これは正義のシンボルだと
いわれています。この村でも日本ではあまり見かけなくなった風景、ニワトリと犬の放し飼いが
行われていて、観察してみると、犬はすまなさそうな目をして建物の日陰で寝ているのに対し、
ニワトリのほうは、オンドリがメンドリを従えて、胸をそらし家々のまわりを堂々と歩いています。
どうもインドネシアではニワトリが幅を利かせているようなのでした。
住居棟の細い階段を上って入るスペースは台所、食事処、居間とトイレも兼ねた一間。
その左右に一部屋ずつあり、室内はいわば2DK。小さな窓から射す光のみが室内を明るくさせています。
家主の老人が敷物に座り、傍らで煙草を静かにふかしていました。若い世代はトンコナンを離れ、
そばの新しい家で今風の生活をしているとのこと。
次に訪ねたナンガラ村では、数日後のお葬式を控えて、集落中が準備でおおわらわでした。
入口では黒い牛が1頭、杭につながれて草を食んでいました。この牛はいずれ式の途中で
いけにえになる運命にあります。

葬祭の準備に忙しいナンガラ村
ナンガラ村もトンコナンが並ぶ伝統の村です。
集落の中央の集会施設にはすでに故人の遺影が飾られ、大勢の人が式典に参加できるよう、
桟敷席状のしつらえが整っていました。赤い幕が張られ、大変華やか。日本の白黒とは正反対です。
式には6日間に約2万人が参列します。広場では牛、豚、鶏が次々と殺され、
参列者にふるまわれるそうです。
ところで、この豪華ともいえる葬儀、トラジャの人々にとっては、人生のなかでの最大の行事が
葬儀なのです。葬儀は来世への大事なパスポートといえるのです。
今回も政府の高官だった息子さんと母親の二人がたまたま同時に弔われるのですが、
経費、準備のためには数カ月、いや何年もかかることもあるわけです。
かつて遺体はミイラ職人による秘密の方法で腐敗止めが行われましたが、現在は防腐注射を施され
長い白布でぐるぐる巻きにされ、一旦棺におさめられて、時期がきたら儀式にのぞみます。
葬祭には大きなエネルギーが渦巻いているようでした。
(海外情報部 編集長:丑山孝枝)